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小山の伝説

小山の伝説・小山百景は、小山市教育委員会文化振興課・小山の昔の写真は、小山市観光協会に帰属します。無断転載、再配信等は行わないで下さい。

人から人へ、親から子へと長い間語り伝えられてきた伝説、それは生の郷土の歴史であり、かけがえのない文化遺産といっても過信ではありません。
伝説には多少の脚色があっても、郷土に根ざした先人たちのすばらしい英知や心情には現代に生きる私たちの心をとらえてやまない、不思議な力が秘められているように思われます。

小山の伝説

お知らせけしがら不動(卒島

 卒島の東南部の旧小山街道沿いのあたりは、むかしは、一帯のアシ原だった。長いアシがびっしり生えていて、街道を通る人には、東の筑波山も、西の大平山も見えないほどだった。
晩秋の昼下がり、アシ原のへりの畑で、一人の老人がソバを刈っていた。しわをきざんだ顔も、筋立った腕も、まっ黒に日焼けして、長年のつらい労働にたえてきたことを語っていた。
小山のほうから走ってきた武士が、老人を見かけると、道をはなれて大またに近づいた。荒い息づかいをおさえながら、
「お百姓、身におぼえがないのに、追われて難渋しておる。ご無体だが、どうか、しばらくかくまっては下さらぬか。」
老人は、腰をのばして、相手を見た。旅装束もりりしい中年の武士で、するどいがにごりのない眼をしていた。人品からしても、悪いことのできそうな人ではなかった。わけがありそうだ、と老人はとっさに決心して、
「よろしゅうございますとも。そこのアシの中へかくれなされ。」
老人は、武士をアシ原の中ほどまで連れて行った。そして、自分も別のところへ身を潜めた。丈高いアシが、二人をかくしてしまった。そのとき、数人の騎馬隊が、ひずめの音高く駆けぬけて行った。追手だった。
馬蹄の音が遠ざかるのを聞きすまして、老人は、そっと武士のところへ寄って行った。
「もうだいじょうぶでございます」
「かたじけない」
武士は、片手でおがむようなしぐさをした。安心したので疲れが出たのか、アシの中に腰をおろして、動こうともしなかった。
「まだまだ、油断はなりませんぞ。しばらく、ここで休んでいなされ。暗くなるまでのごしんぼうじゃ。」
 老人は、そう言いおいて、畑へ戻った。黙々とソバ刈りを続けた。さいわい、さっきの追手は引き返して来なかった。たぶん、ほかの道を探しているのだろう。
 やがて、太陽が沈んで、西の山脈の上に宵の明星がきらめきはじめた。小山の城から、太鼓のひびきが流れてきた。城の物見櫓の白壁が、夕焼けをうけて赤く光っていた。城ではいま、縄張りを広げる工事をやっているので、仕事じまいの合図の太鼓だった。古河に公方さまがいて、上野の上杉氏と武蔵の上杉氏とを相手に、血みどろの合戦をやっていた。どこかで、毎日のように戦いがあった。小山は公方がたで、年に何度も南のほうへ出陣した。物騒な時勢で、物資は窮乏し、農民は飢えていた。
 老人は、疲れ果てて、仕事をしまいかけた。そのとき、ふと、ひとつの考えが浮かんだ。
 「ひょっとすると、上杉方の侍かも知れないぞ。」
 ことばに、聞きとれないなまりがあったのを思い出した。敵方だとすると、お城へ知らせなければならない。ないしょで逃がしたのがわかったら、ひどい仕置きを受けるだろう。老人は、肩をすくめて、座りこんでしまった。どうしてよいか、わからなくなったのである。けっきょく、早くどこかへ立ち去ってもらうほかはない。老人はそう思って、武士のところへ行った。武士は、まだぐっすり眠っていた。
 「もし、お侍さま。」
と、声をかけたが、目をさますようすがなかった。老人は、じっとその顔を見おろしていたが、わなわなふるえ出した。と、目をつむって、手に持っていた鎌をふり上げた。風もないのに、アシの穂先がざわめいた。
 老人は、もともと助けるつもりだったのだが、武士が眠りこんでいたばかりに、自分でも思いもよらないことをしてしまった。殿さまからほうびをもらおう、と考えたのだった。ところが、武士が重たい財布を持ているのを見つけて、また気が変わった。その財布をソバの束の中にかくして、家に帰ったのである。
 老人の苦しい生活は、その日から救われたろうか?―――」あべこべに、その夜から、老人は安らかに眠れなくなった。武士の顔がいつも目の前にちらついた。眠りかけると、悪夢にうなされて目がさめてしまう。老人は、しだいに衰えた。ソバの畑のすみに、不動さまをまつって、武士の霊をなぐさめたが、それでも効果はなかった。ついに、あわれな老人は断食して死んだ。老人は、生まれつき善良だったのだ。
 村人は、その不動の祠を「けしがら不動」と呼んだ。けしがらとは、自分の罪を消すために建てたのが残ったもの、という意味なのだろう。また、非業に死んだ武士の怨みによって、このあたりのアシは、片葉になった、とも言い伝えられた。

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